陽菜の部屋に、これまで聞いたことのない不思議な音が響き渡る。キラキラとした音、宇宙を思わせる音、人工的な音…様々な音色が次々と流れてくる。
「ねえ、お姉ちゃん。この音、なんだか不思議…楽器の音なの?」 陽菜が目を丸くして尋ねる。
美樹はにっこりと笑う。 「よく聞き取ったわね。これはシンセサイザー、略してシンセって呼ばれる楽器の音よ」
「シンセサイザー?なんだかすごく難しそう…」 陽菜は少し困惑した表情を見せる。
「難しそうに聞こえるかもしれないけど、とってもワクワクする楽器なのよ。想像してみて、もし魔法の杖があって、その杖を振るだけで世界中のあらゆる音が出せるとしたら?」
陽菜の目が輝く。 「わぁ、すごい!それって楽しそう!」
「そう、シンセサイザーはまさにその魔法の杖のようなものなの。音を自由自在に作り出せる、音楽の魔術師みたいな楽器よ」
美樹はパソコンを操作し、様々なシンセの音を流す。
「聴いて。これは海の波の音を模した音…これは宇宙を漂っているような音…これは未来の機械の音…」
陽菜は目を閉じて真剣に聴き入る。 「すごい…本当に色んな音が出るんだね」
「そうなの。シンセサイザーは、音を電子的に合成して作り出すの。だから、実際の楽器の音を真似することもできれば、現実には存在しない音も作れるのよ」
「へぇ…でも、どうやって音を作るの?」
美樹は少し考えてから説明を始める。 「簡単に言うと、音の『もと』になる波形を作って、それを加工していくの。例えば…」
美樹は部屋にあるホワイトボードに簡単な波形を描く。
「こんな感じの波を作って、それを変形させたり、重ねたりして音を作っていくの。まるで、粘土で色々な形を作るみたいにね」
「なるほど…でも、それって難しくないの?」
美樹は優しく微笑む。 「確かに、奥が深くて難しい部分もあるわ。でも、最近のシンセサイザーは使いやすくなっていて、初心者でも簡単に素敵な音が出せるようになっているのよ」
「へぇ、じゃあ私にも使えるかな?」
「もちろん!実は、今のアイドルソングの多くがシンセサイザーを使っているの。特に、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の影響を受けた曲では欠かせない楽器になっているわ」
陽菜は興味深そうに聞いている。 「アイドルソングでも使うんだ!どんな風に使うの?」
「色々な使い方があるわ。例えば…」
美樹はパソコンを操作し、アイドルソングを流す。
「この曲の、キラキラした音背景やサビで盛り上がる音、これらはシンセサイザーよ。曲の雰囲気を作ったり、盛り上げたりするのに大活躍しているの」
「わぁ、本当だ!今まで気づかなかったけど、確かにたくさん使われてるね」
「そうなの。シンセサイザーは曲の中で様々な役割を果たすことができるの。メロディーを奏でたり、ベースの音を出したり、効果音のように使ったり…本当に多才な楽器なのよ」
陽菜は少し考え込む。 「でも、シンセサイザーってどんな形をしているの?ギターみたいに形があるの?」
美樹は笑いながら答える。 「良い質問ね。シンセサイザーには色々な形があるの。キーボードのような形のものもあれば、小さな箱のようなものもあるわ。最近では、パソコンの中で動くソフトウェアのシンセサイザーも人気よ」
「へぇ、パソコンの中にも楽器があるんだ!」
「そうよ。DTMでは、そういったソフトウェアのシンセサイザーをよく使うの。実は、これまで聴いてきた音の多くも、パソコンの中のシンセサイザーで作られているのよ」
陽菜は驚いた表情を見せる。 「すごい…音楽の世界って、もっと深いんだね」
美樹はにっこりと頷く。 「そうね。シンセサイザーの登場で、音楽の可能性は大きく広がったの。昔は実際の楽器でしか音が作れなかったけど、今では想像力の限り、どんな音でも作れるようになったのよ」
「わぁ、楽しそう!私も試してみたい!」
「その意気よ!でも、最初は少し戸惑うかもしれないわ。シンセサイザーは可能性が無限にあるからこそ、どんな音を作ればいいか迷うこともあるの」
陽菜は少し不安そうな表情を見せる。 「そっか…難しそうだな」
美樹は優しく微笑む。 「大丈夫、最初は既存の音色を使うところから始めればいいの。そして、少しずつ音を変えていく。そうやって、自分だけの音を見つけていくのよ」
「なるほど…じゃあ、まずは色んな音を聴いてみるところから始めようかな」
「そうね、それがいいわ。音楽を聴くときは、メロディーだけでなく、使われている音色にも注目してみて。きっと新しい発見があるはずよ」
陽菜は元気よく頷く。 「うん!これからアイドルソングを聴くときは、シンセの音にも注目してみる!」
「素晴らしいわ。音楽の世界はどんどん広がっていくわ。ひなちゃんの耳も、きっと成長していくはずよ」
美樹はパソコンを操作し、もう一つの曲を流す。 「さて、この曲ではどんなシンセの音が使われているかな?」
陽菜は真剣に耳を傾ける。 「うーん…あ!サビの部分で、なんだか宇宙みたいな音がする!」
「その通り!よく聴き取れたわね。これは『パッド』と呼ばれるシンセの音で、曲に広がりを持たせる役割があるの」
「へぇ、シンセにも色んな種類があるんだね」
「そうよ。これからもっともっと色んな音に出会えるわ。楽しみにしていてね」
部屋には、シンセサイザーの多彩な音色が響き続けている。姉妹の目には、音楽への好奇心と創造への意欲が輝いていた。シンセサイザーという魔法の楽器を通じて、音楽制作の無限の可能性を感じ取った二人。これから生み出される音楽に、どんな不思議な音色が織り込まれていくのか。その期待に胸を膨らませながら、姉妹は新たな音楽の冒険へと歩みを進めていく。