陽菜の部屋に、今日も音楽が流れている。しかし、いつもと少し違う、深みのある音が響いている。
「ねえ、お姉ちゃん。この音、なんだか特別な感じがするね」 陽菜が不思議そうに言う。
美樹はにっこりと笑う。 「よく気づいたわね。今日はベースについて話そうと思って。この音、ベースの音なのよ」
「ベース?バンドで見たことある気がする…」
「そうそう。4本弦の楽器よ。ギターよりも低い音が出るの」
美樹はパソコンを操作し、ベースの音を際立たせた曲を流す。
「聴こえる?楽曲の低域部分を支えている音よ」
陽菜は真剣に耳を傾ける。 「うーん…あまりはっきりとは聴こえないけど、なんだか曲全体が締まる感じがする」
「その通り!ベースは聞こえにくいけど、無くてはならない存在なの。音楽の土台を作る大切な楽器よ」
美樹は続ける。 「アイドルソングでは主にエレキベースが使われるわ。でも、シンセベースも結構使われるのよ」
「シンセベース?」 陽菜は首を傾げる。
「そう、シンセサイザーのベースを使ったものなんだけど…シンセはあとで詳しく説明するから安心して」
陽菜は納得したように頷く。
「ベースは音楽の低域を支えると同時に、曲全体のリズムも生み出す奥が深い楽器なのよ。音を鳴らさない休符わかるよね?」
「うん、音が鳴らない部分でしょ?」
「そう。ベースは音を鳴らさないことによってリズミカルにしたりと、音は太いのにとても繊細に扱う必要があるの」
「へー、難しそう…」 陽菜は少し困惑した表情を見せる。
美樹は優しく微笑む。 「大丈夫、すぐには理解できなくていいの。でもね、ベースの演奏方法には色々あるのよ。シンプルな鳴らし方もあれば、ベースが歌っているように頻繁に動く鳴らし方もある」
「ベースが歌う?」 陽菜は興味深そうに聞く。
「そう。私は後者の方が好きで、よくベースライン…あ、ベースが奏でるメロディみたいなものね。ベースラインは私はよく動かすものになってしまうわ」
美樹は少し懐かしそうな表情を浮かべる。 「これはL’Arc~en~Cielの『Blurry Eyes』という曲からの影響が一番強かったし、私の土台になっている。ベースラインを生みだすベースになった曲ね」
「え、ダジャレ…」 陽菜は少し呆れたような、でも楽しそうな表情を見せる。
美樹は笑う。 「今の笑うところよ。それまではベースは比較的同じ音をダダダダと鳴らすものだと思っていたの。私の好きなメロコア系バンドではそれが定番だったし。なのにラルクのこの曲は完全にベースが歌っている、だけど全体との調和がすごくて衝撃を受けたわ」
陽菜は真剣な表情で聞いている。
「こんな風に音楽は誰かの影響を受けて、自分の引き出しにして、それが自分のオリジナルに生まれ変わったり、自分らしさを生む作品になるんだよ」
「へぇ…音楽って深いんだね」 陽菜は感心した様子。
美樹はにっこりと笑う。 「そうよ。だからこそ面白いの。ベースひとつとっても、こんなに奥が深いでしょ?」
美樹はパソコンを操作し、別の曲を流す。 「この曲のベース、聴こえる?」
陽菜は真剣に耳を傾ける。 「うん…なんだか元気が出てくる感じがする」
「そう、この曲はベースがリズムを引っ張っているの。ドラムと一緒になって、曲全体を前に進めているのよ」
「すごい…ベースってこんなに大切な役割があるんだね」
美樹は嬉しそうに頷く。 「そうなの。ベースは縁の下の力持ちみたいなものかもしれないわ。目立たないけど、曲を支える大切な存在なの」
陽菜は少し考え込んでから言う。 「お姉ちゃん、私もベースの音を使って曲を作ってみたい」
「いいわね!でも、ベースは難しい楽器でもあるの。最初は簡単なベースラインから始めてみましょう」
「うん!楽しみ!」
美樹は続ける。 「それと、ベースを聴くコツがあるの。低い音に集中して聴いてみて。そうすると、曲の土台がどう作られているか、少しずつわかってくるわ」
「わかった。これからアイドルソングを聴くときは、ベースの音にも注目してみる!」
「その意気よ!音楽の世界はどんどん広がっていくわ。ひなちゃんの耳も、きっと成長していくはずよ」
部屋には、ベースの深みのある音が響き続けている。姉妹の目には、音楽への探究心と挑戦への意欲が輝いていた。ベースという楽器を通じて、音楽制作の奥深さと魅力を感じ取った二人。これから生み出される音楽に、どんなベースラインが刻まれていくのか。その期待に胸を膨らませながら、姉妹は新たな音楽の冒険へと歩みを進めていく。