第5話「鍵盤の魔法:MIDIキーボードの不思議な世界」

陽菜の部屋には、日に日に機材が増えていく。今日も美樹が新しい箱を持って入ってきた。

「ひなちゃん、今日はこれよ!MIDIキーボード」

陽菜は目を輝かせる。「わぁ!ピアノみたい!」

美樹は笑いながら「そうそう、でもちょっと違うのよ」

箱から取り出されたのは、確かにピアノのような鍵盤がついた機材。しかし、スピーカーはどこにも見当たらない。

「あれ?音は出ないの?」陽菜が不思議そうに尋ねる。

「鋭いわね。実はね、MIDIキーボードは音を出す機械じゃないの」

「え?じゃあ何するの?」

美樹はにっこり笑う。「信号を送るのよ。実際の音はパソコンのソフトが鳴らすの」

陽菜は首をかしげる。「MIDI…ってなに?」

「良い質問ね」美樹は真剣な顔になる。「音楽制作には2つの大切な要素があるの。『実際の音』と『信号』。MIDIは後者、つまり信号なの」

「うーん、難しそう…」

「そうね、ちょっと説明しづらいけど…」美樹は考え込む。「そうだ!こんな風に考えてみて。『実際の音』っていうのは、例えばマイクで録音した歌声みたいなもの。パソコンの中では波のような形で表示されるの。オーディオ波形っていうのよ」

「へぇ、波みたいなんだ」

「そう。一方、MIDIは…そうね、楽譜みたいなものかな。どの音をいつ鳴らすか、という指示書みたいなものよ」

陽菜の目が少し輝き始める。「なるほど!でも、なんでそんな難しいことするの?」

美樹は嬉しそうに続ける。「それがね、MIDIを使うと後から音を変えたり、タイミングを調整したりできるの。とっても便利なのよ」

「へぇ〜、すごい!」

美樹は陽菜の興味が高まっているのを感じ、さらに詳しく説明を続けた。

「そうなの。例えば、MIDIで録音した演奏は、後からピアノの音をギターの音に変えたり、少しずれたタイミングを修正したりできるの。これってすごく便利でしょ?」

陽菜は目を丸くして聞いている。

「一方で、マイクで録音した歌声のような音声データは、後から大きく変えるのが難しいのよ。これが録音されたオーディオと呼ばれるものね」

「へぇ、そうなんだ」陽菜が感心した様子で言う。

美樹は優しく微笑んで続ける。「どっちが良いとか悪いとかじゃないの。でもね、もし楽器が上手に弾けなくても、MIDIを上手く使えば、きちんと音楽は作れるのよ。例えば、ゆっくり演奏して録音し、後から速くしたり、音程を直したりできるからね」

「わぁ、それって素敵!私みたいな初心者でも曲が作れるかもしれないってこと?」

「そうよ!MIDIは音楽制作の可能性を広げてくれる、素晴らしい技術なの」

陽菜の目が輝きを増す。「すごい!早く使ってみたい!」

美樹はパソコンを開き、ウェブサイトを見せる。「ほら、MIDIキーボードにもいろんな種類があるの」

画面には大きなキーボードと小さなキーボードが並んでいる。

「わぁ、かわいい!小さいの欲しい!」陽菜が小さなキーボードを指さす。

美樹は笑いながら「でもね、初心者にはなるべく大きいものをおすすめするの」

「え?どうして?」

「アイドルソングやJ-POPは、低い音から高い音まで幅広く使うのよ。小さいと物足りなくなっちゃうかも」

陽菜は少し考え込む。「そっか…」

美樹は2つのキーボードを取り出す。「これが私が使ってるの。大きい方はROLAND A-49-BK、小さい方はNOVATION Launchkey 25 MK3っていうの」

陽菜は小さい方を手に取り、鍵盤を押してみる。「あれ?本当に音出ないんだ」

突然、陽菜が「あ!」と声を上げる。

「どうしたの?」

「これだと…ねこふんじゃった、引きにくそう」

美樹は大笑いする。「ねこふんじゃった!?今の子でもピアノっていえばねこふんじゃったなの?」

陽菜も笑い出す。「うん!みんな知ってるよ」

「へぇ〜、その歴史はいつから始まったんだろうね。面白いわ」

笑いが収まると、陽菜は小さいキーボードをじっと見つめる。「ねえ、この回る部分と四角いボタン、なんのためにあるの?」

「あ、それはね…」美樹は簡単に説明を始める。「回る部分はつまみっていって、音の大きさや効果を調整するのに使うの。四角いボタンはパッドっていうのよ。主にドラムの音を鳴らすときに使うの。指でタップしてリズムを刻むんだ」

「へぇ〜、ドラムまで鳴らせるんだ!」陽菜は目を輝かせる。

「そう、これ一台でいろんな音が出せるのがMIDIキーボードの魅力なのよ」美樹は嬉しそうに付け加えた。

「へぇ〜、MIDIキーボードって色々な機能があるんだね!」陽菜は感心した様子。

突然、陽菜の目が輝く。「あ!もしかして、これもわたしにくれるの!?ありがとう!」

美樹は慌てて「あ、それはちょっと…お高かったし、たまーにまだ使うから…これは貸すだけね」

「えー!」陽菜がぶーぶー言い始める。

美樹は優しく微笑む。「でも、最初は私の大きい方を貸してあげるから、そっちで始めましょ。どう?」

陽菜は少し考え込んでから、「うん、わかった。大きい方がいいって言ってたもんね」

美樹はホッとした表情を見せる。「そうそう。これで曲作りの準備が整ったわね」

陽菜は興奮気味に「早速使ってみたい!」

「その前に、ちょっと練習しないとね。まずは…”ねこふんじゃった”から始めてみる?」美樹がふざけて言う。

二人は再び大笑いする。部屋に笑い声が響く中、新しいMIDIキーボードが、これから始まる音楽の冒険を静かに見守っているようだった。


今回のおさらい

MIDIキーボードの基本:

  1. MIDI(Musical Instrument Digital Interface)とは:
    • 音楽情報を伝える信号のこと
    • 実際の音は出ない。パソコンのソフトが音を鳴らす
  2. 音楽制作の2つの要素:
    • 実際の音(オーディオ波形):録音した音声など
    • 信号(MIDI):音をいつ、どう鳴らすかの指示書
  3. MIDIキーボードの選び方:
    • 初心者は大きいサイズがおすすめ
    • J-POPやアイドルソングは広い音域を使うため
  4. 紹介されたMIDIキーボード:
    • 大きいサイズ:ROLAND A-49-BK
    • 小さいサイズ:NOVATION Launchkey 25 MK3

覚えておこう!

  • MIDIは後から音を変えたり調整したりできる便利な技術
  • キーボードのサイズは使用目的に合わせて選ぼう
  • MIDIキーボードには様々な機能がついているものもある

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