第10話「クリエイターの心得:音楽の魔法使いへの道」

陽菜の部屋には、新しい機材が整然と並んでいる。パソコンの画面には複雑なソフトが表示され、陽菜は眉間にしわを寄せ、少し困惑した表情を浮かべている。指先でマウスをいじりながら、時折ため息をつく。

「ねえ、お姉ちゃん」 陽菜の声には、少し落胆の色が混じっている。

「ん?どうしたの、ひなちゃん?」 美樹は優しく声をかける。

「音楽作りって、思ったより難しいかも…」 陽菜は肩を落とし、画面から目を離す。

美樹は陽菜の横に座り、優しく微笑む。その表情には、かつて同じ経験をした者の理解が滲んでいる。

「そうね。でも、大丈夫よ。誰もが最初は戸惑うものなの。技術だけじゃなく、心構えも大切なのよ。今日はクリエイターとしての心得を少し話してあげるわ」

陽菜は姉の言葉に希望を見出し、真剣な表情で聞き入る。その目には、知識を吸収しようとする強い意志が輝いている。

「クリエイターには、技術と考え方の2つが大切なの。どっちも常にスキルアップしていかなければいけないわ」 美樹は指を2本立てて説明する。

「へぇ、考え方も大切なんだ」 陽菜の声には驚きが混じっている。

「そうよ。技術はこれからもっと詳しく教えるとして、まずは心構えを覚えようね。ここもたくさん意識することはあるけど、ちょっとずつ覚えていけばいいの」

美樹は少し考えてから続ける。その表情には、自身の経験から得た深い洞察が滲んでいる。

「まず、他の人と比較しないこと。これは特に初心者の時は絶対にダメよ」

「え?でも、上手な人の曲を聴くと参考になるんじゃない?」 陽菜は少し反論するように言う。

「もちろん、聴くのは大切。でも、比較して落ち込むのはNG。初心者の時は当然レベルは低いし、変な音楽になるのは当たり前なの。比較して落ち込んでやる気を無くすのは絶対に避けることね」

美樹は自身の経験を思い出すように目を遠くに向ける。 「私も最初はすごく落ち込んだことがあったわ。でも、それを乗り越えたからこそ、今があるの」

陽菜は少し安心した表情を見せる。姉の言葉に、自分も頑張れるかもしれないという希望を感じている。

「あと、初心者段階で褒めてもらいたくてSNSに投稿するのも避けた方がいいわ」

「え?どうして?」 陽菜は少し驚いた様子で尋ねる。

「気持ちはわかるけど、嫌な気持ちになる可能性が高いから。やる気を出すのはもちろん、やる気を無くさない努力も大切なの。SNSは時として残酷な場所になることもあるのよ」

美樹は続ける。その声には、音楽への深い愛情と、クリエイトすることの神秘さが滲んでいる。

「そもそも、音楽を作るって無理なことなのよ」

「え?無理って…」 陽菜は混乱した表情を見せる。

「そう、意味がわからないくらい謎なクリエイトなの。形は無いし、音楽はパズルみたいなもの。こっちが変ならあっちも変になったりする」

陽菜は少し混乱した表情を見せるが、同時に興味も湧いてきている様子。

「楽器の演奏も歌の音量も、全体の音質もピタッとはまって、同時に心に響く感情的な部分を突き動かす”何か”を作品にこめる。これってはっきり言って意味不明なの」

美樹は笑いながら続ける。その笑顔には、音楽制作の難しさと面白さが同時に表れている。

「音楽は目に見えないし決まりもない、全て自由自在に扱えるキャンバスに作品を組み立てていくようなもの。だから難易度が高すぎ。まさに神様になっているようなものよ」

陽菜は目を丸くする。その表情には、音楽制作の奥深さへの畏敬の念が浮かんでいる。

「そんな難しいの?」 陽菜の声には少し不安が混じっている。

「そうよ。簡単にできるはずなくて当然。だからこそ仕上がった時の満足感、達成感はとてつもないの!私も初めて曲を完成させた時は、泣きそうになったわ」

美樹の目には、その時の喜びが蘇ったかのような輝きが宿る。陽菜も、いつかそんな経験ができることを夢見て、目を輝かせる。

美樹は少し表情を変えて、真剣に話し始める。その姿は、まるで音楽の神殿の巫女のようだ。

「あと大事なことは、ハイクオリティなもの、技術を向上することだけを目的にしないでね」

「え?でも、上手くなりたいって思うのは普通じゃない?」 陽菜は少し困惑した様子で尋ねる。

「もちろん、それは大切。でも、『良い曲を作る』ってことは必ずしもすごいコード進行でセンスいいメロディラインで誰も聞いたこと無いような圧倒的なハイレベルな音楽を作ることじゃないの」

陽菜は少し考え込む。その表情には、新しい概念を理解しようと努力している様子が見て取れる。

「音楽に限らず、もっとすごいCGで派手な映像演出を目指したり、もっと高度で繊細な表現を目指したり。素人からするとどれもハイレベルに見えるわよね。もちろん目指すのは悪くないけど、ハイレベルだから心を動かす作品になると勘違いしないでもらいたいの」

美樹は、より身近な例を出して説明を続ける。

「ひなちゃん、質問よ。もし子供から手紙をもらうとき、下手な字で一生懸命書いた手紙と、パソコンで打ったようなきれいな字で読みやすい手紙、どっちが心を動かされる?」

「うーん、下手な字の方かな」 陽菜は少し考えてから答える。

「そうよね。じゃあ、昔から歌い継がれてる童謡はどう?最近のアイドル曲のような派手さはないし、すごいコード進行も音色も使ってない。でも、良くない音楽って言えるかしら?」

「そうだね…良い音楽だと思う」 陽菜は少しずつ理解し始めている様子。

美樹は満足そうに頷く。その表情には、妹が重要なポイントを理解し始めたことへの喜びが滲んでいる。

「ここで重要なのは『世界観』がきちんと表現されているかどうかなの。世界観が全くないものはいくら高度な技術を使っても全然心に響かないわ」

陽菜は少しずつ理解し始めた様子で、熱心に聞き入っている。

「子供の手紙が心に響くのは、慣れない手でがんばって書いたんだなぁという背景が伝わる世界観だから。この世界観を作品から感じることができれば、技術が中途半端でもきちんと作品になるの」

美樹は最後にこう締めくくる。その声には、クリエイターとしての経験と知恵が込められている。

「だから技術向上を目指すのと同時に、どうすれば世界観が出るかも意識してみて。自分の気持ちや伝えたいことを大切にするの。それが結果的に聴く人の心に響くことにつながるわ」

美樹は少し間を置いて、優しく付け加える。

「今はわからなくてもいいから、ちょっとでも頭の片隅に入れておいてね。こういうちょっとした考え方の積み重ねもクリエイターには大切だから。時間とともに、きっと理解できるようになるわ」

陽菜はしばらく考え込んでから、ゆっくりと頷く。その表情には、新しい知識を吸収した喜びと、これからの挑戦への期待が混ざっている。

「難しいけど…なんとなくわかった気がする。ありがとう、お姉ちゃん」 陽菜の声には、感謝の気持ちが溢れている。

美樹は優しく陽菜の頭をなでる。その仕草には、妹の成長を見守る姉の愛情が表れている。

「よく理解できたわ。これからの音楽作りが楽しみね。一緒に頑張っていこう」

陽菜は決意に満ちた表情で言う。その目には、新たな冒険への期待と興奮が輝いている。

「うん!頑張るよ!自分らしい音楽を作れるように、毎日少しずつ挑戦していくね」

部屋の窓から差し込む夕日が、二人の横顔を優しく照らしていた。その温かな光は、まるで二人の前途を祝福しているかのよう。音楽という魔法の世界への旅は、まだ始まったばかり。でも、この姉妹なら、きっと素晴らしい音楽を生み出せるはず。そんな希望に満ちた予感が、部屋中に満ちていた。

陽菜は再びパソコンの画面に向かう。今度はその表情に、少し前までの困惑は見られない。代わりに、新しい知識と決意に満ちた自信が感じられる。美樹はそんな妹の姿を見守りながら、自分もまた一つ成長したような気がしていた。

クリエイターとしての道のりは長く、時に険しい。でも、二人で歩んでいけば、きっと素晴らしい音楽の花を咲かせることができるはず。そんな希望を胸に、姉妹は新たな一歩を踏み出そうとしていた。

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