第1話「音符の魔法使い!?姉妹で紡ぐメロディの第一歩」

教室の窓から差し込む夕日に気づいたとき、私はハッとした。
気がつけば、みんなとっくに帰ってしまっている。

「あ〜、また歌詞ばっかり書いてた…」

ため息をつきながらノートを閉じる。
私、陽菜(ひな)は高校2年生。
でも、今の私の頭の中は学校のことでいっぱいじゃない。

憧れのアイドルグループ「Starlight」の新曲が、1週間後に発売される。
その曲を作ったのが、なんと私の姉・美樹(みき)なんだ。
テレビで流れる予告CMを聴くたび、胸が高鳴る。

「すごいな、お姉ちゃん…」

姉は映像制作会社の音声を扱う部署で働いている。
CMや人気アイドルの曲まで手がける、れっきとしたプロの作曲家だ。

私も将来は歌手になりたい。
いや、ただの歌手じゃない。
自分で曲を作れるアイドルになりたい!

でも、どうやって曲を作ればいいのかさっぱりわからない。



「よし、今日こそお姉ちゃんに相談してみよう!」
決意を固めて家に向かう。
玄関を開けると、妙な匂いが漂ってきた。




「ただいま〜。あれ、この匂いは…」
「あ、ひなちゃん、おかえり〜!」

台所から姉の声が聞こえる。
そこにいたのはエプロンをした美樹姉さん。
なぜかフライパンから煙が上がっている。


「お姉ちゃん、また何か燃やしてる?」
「えへへ、ちょっとね。今日はオムライス作ろうと思ったんだけど…」

姉は苦笑いしながら、真っ黒こげの何かを見せた。
これがオムライス?
誰が見てもただの炭だった。


「もう、お姉ちゃんってば!プロの作曲家なのに、なんで料理はこんなに…」
「音符は得意だけど、レシピは苦手なのよ〜」


姉はケロッとしている。
仕事の時はきっと違う顔なんだろうな。


「じゃあ、私が作るよ。お姉ちゃんはテーブル準備して」
「お〜、さすが我が妹!頼もしい!」


慌てて冷蔵庫を開け、材料を取り出す。
10分後、なんとかオムライス2人前の完成。


「わ〜、ひなちゃんのオムライスおいしい!」
「お姉ちゃん、ケチャップでハート描くの忘れてるよ」
「あ、そっか!こうかな?」


姉が描いたのは、明らかに音符だった。
でも、まあいいか。


「ねえ、お姉ちゃん」
「ん〜?」

「私ね、曲作りたいんだ」
「おお!」

姉が目を輝かせた。


「いいじゃん!どんな曲?バラード?ロック?それともEDM?」
「え、えっと…アイドルソング、かな」

「そっか!Starlightみたいな感じ?」
「うん、でも…どうやって作ればいいのかわからなくて」

姉はしばらく考え込んでいたが、突然立ち上がった。


「よし、じゃあ教えてあげる!まずは…」
そう言うと、姉は台所に駆け込んでいった。


「お姉ちゃん?」
「ちょっと待ってね〜」


ガチャガチャと音がする。何をしているんだろう?


「じゃじゃーん!」


姉が戻ってきた。手には…ザルとおたま?


「これ、何するの?」
「作曲の基本よ!リズムから始めましょ」

「え?でも、パソコンとか使わないの?」
「そりゃあ最終的にはね。でも、まずは体で感じることが大事なの」

姉は目を輝かせながら説明を始めた。


「ほら、こうやってザルを叩くでしょ?」


カンカンカン、という音が響く。


「で、おたまでこうやって…」


カチャカチャカチャ。


「リズムって、身近なものから生まれるのよ。料理する時のリズム、歩く時の足音、心臓の鼓動…全部音楽になるの」

姉の話を聞いていると、なんだかワクワクしてきた。

「じゃあ、私も…」

台所から別のザルを持ってきて、真似してみる。

カンカンカン。

「そうそう、その調子!」

姉と一緒にリズムを刻んでいると、だんだん音が揃ってきた。

「ねえ、これってもしかして…」
「うんうん、気づいた?Starlightの新曲のリズムだよ」
「えー!本当だ!」


驚いて手を止めると、姉が笑った。

「音楽ってね、どこにでもあるの。大切なのは、それを見つける目と、表現する技術。これからちょっとずつ教えていくから、一緒に頑張ろう?」

「うん!」


その夜、ベッドに横たわりながら、私は考えていた。
アイドルになりたい。
でも、ただ歌うだけじゃない。
自分の歌を、自分で作れるアイドルになりたい。
姉のように、音楽の中に生きる人になりたい。


今日の”レッスン”は、ちょっと変わっていたかもしれない。
でも、姉の目は本気だった。

これから、どんなことを教えてくれるんだろう。
楽しみで、少し怖くて、でもやっぱりワクワクする。


明日から、私の新しい挑戦が始まる。

携帯の画面に、憧れのStarlightの画像を映し出す。

「私も、いつかあんな風に…」

目を閉じると今日のことを思い出す。
カンカンカン、カチャカチャカチャ。
台所の音が、心地よいリズムに変わっていったあの瞬間。

これが、私の小さな一歩。いつか大きな飛躍につながりますように。

そんな願いを込めて、私はまだ見ぬ曲を口ずさみながら、幸せな夢の中へと落ちていった。

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